「バブルがはじけたのも随分昔のように感じる」
いや、そのバブルさえ経験した事の人さえ増えてきている。
今も昔も「大切」なものは何も変わっていないのに、時に「時代」は人々に
過酷な試練を与えます。
あかねさんの家にもその波は押し寄せていた。
勢いのいい時、回りはちやほやするが、いざ会社が傾くと手のひらを返したように冷たくなるのも世の常。
しかし、彼女はそんな逆境も、持ち前の天真爛漫さで、当店に通っていた。
美容室には、なぜか「情報」が集まる。女性特有の「おしゃべり」からだ。
しかし、僕らはそんな「情報」にはあまり流されない。
いつもニュートラルな状態でヘアーを扱いたいからだ。
あかねさんの要求は、だんだんエスカレートしていった。
なぜそうなっていったのか、彼女は、髪型を変えるのが楽しくなっていた。
通常「クセ毛」の場合、クセを目立たなくしたいと思う。しかし、僕は目立たせた。
いや、それしかテクニックをもっていなかった(笑)
アシンメトリーから刈り上げ、ツーブロック、当時であればかなり斬新といわれる髪型を
ことごとくオーダーしてきた。
今思う。決してデザイン的にはキレイではなかったはず。しかし彼女は、僕以外は指名しなかった。(←ここ重要)
最初、ほとんどオーダーを聞いても答えなかった、彼女の心のわだかまりは、すでになく
逆に、似合う・似合わないということを超えて、やる!または、やってみたい!
そんな考え方に変わってきていた。
おそらく、家に帰ればごたごたしたいやな出来事を、忘れるかのように頻繁に美容室に来るようになっていた。
一ヶ月に一回が、週一に。そして三日に一回。ひどい時は毎日。
僕の売上は上がるが、なにやら気持ちが晴れない。
彼女のストレスはひどく、髪の毛をキレイにしたぐらいでは、到底癒せてはなかった。
今まで裕福であった「家」が音を立てて崩れはじめていた。
当時二七歳だった彼女は、生まれてはじめて経験する「不安」にだんだん「心」が壊れていくのが見えた。
そんな時、美容師は何が出来るか?
「何も出来ない」・・・
そんなある日、仕事が終わって練習をしていると、電話が鳴った!
電話の向こうの声は、あかねさん。
少し酔っている。
いきなり・・・・
「私を連れて逃げて」!!
さあ衝撃の言葉が出てきました。この後片山はどんな行動にでるのか!
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